現役引退した今村豊を長年取材してきた日刊スポーツ西部本社ボート担当・迫信晴記者が、今村の「昔話」を披露する。

 

今村の、いわゆる“ツケマイ”を初めて見た時の衝撃は、今でも覚えている。

モンキーターンのない80年代。選手は普通にボートの中で正座をして、普通にスピードを落として回っていた。落とさなければ、遠心力で転覆するからだ。ところが、今村は体重を外にかけ、逆に遠心力を加速させ、全速でターンマークを駆け抜けた。6コースからの全速ツケマイ。当時はツケマイという言葉すらなかった。他の5艇が、止まって見えたほどだった。

ボート界には2人の革命児がいると思う。ツケマイを考案した今村と、モンキーターンの先駆者・植木通彦氏(引退)だ。ともにターンの姿勢を大きく変え、レース形態までも変えた。プリンスとも、天才とも呼ばれた今村だが、「天才ではないですよ。他の人よりちょっと多く努力をしただけ」と語ったことがある。

その今村もメニエール病(※)には苦しみ、担架で運ばれたこともあった。「この病気は選手をやめないと治らない」。神経質な性格と、人気になるがゆえのストレス。ようやく、それからは解放される。本当にお疲れさまでした。

 

メニエール病 内耳を満たす内リンパ液が過剰にたまるのが原因。激しい回転性のめまいと難聴、耳鳴り、耳閉塞(へいそく)感を繰り返す。

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